「医療安全の研修は、春に医師会の講習へ行った。でも受講証がどの引き出しにあるか分からない」「ヒヤリ・ハットは口頭で院長に伝えて終わりで、紙に残っていない」——無床のクリニックでは、医療安全の取り組みが院長と事務長の記憶の中にとどまっていることがよくあります。

2026年4月1日に施行された医療法施行規則の改正で、医療安全管理の体制に「医療に係る安全管理に関する記録を整備すること」が加わりました。この項目は、入院施設のない診療所にもかかります。

先に、要点をまとめます。

  • 無床のクリニックが確保すべき医療安全の体制は、指針の整備、職員研修、事故報告等の改善の方策、そして2026年4月からの記録の整備の4つ。医療安全管理委員会と医療安全管理者の配置は、病院・有床診療所が対象
  • 研修は年2回程度。厚生労働省の通知では、開催または受講の日時・出席者・研修項目を記録することとされ、無床の診療所は院外の研修の受講で代えることもできる
  • これとは別に、院内感染対策(指針・研修・発生状況の報告)、医薬品安全管理責任者(研修・手順書・情報収集)、医療機器安全管理責任者(研修・保守点検の計画と実施・情報収集)の措置がある
  • 記録は「指針は版」「研修は職員×回」「報告は1事例」「保守点検は機器×回」を単位に、職員名簿と機器台帳にひもづけておくと、確認を求められたときにすぐ示せる

この記事は、無床クリニック・歯科医院の院長、事務長、医療安全や感染対策の担当を兼ねている看護師長に向けて、何を記録し、どう残すかを整理します。自院が要件を満たしているかの判断は、管轄の保健所の案内で確認してください(本記事の制度記述は2026年10月6日時点で確認)。

2026年4月の改正で、無床のクリニックは何が変わったのか?

医療法施行規則第1条の11第1項に、医療安全管理に関する記録の整備(第6号)が加わり、無床の診療所も対象になりました。医療安全管理者の配置(第5号)は病院・有床診療所に限られます。

改正後の医療法施行規則第1条の11第1項は、病院等の管理者が確保すべき体制として次の6つを並べています。このうち委員会の設置(第2号)と医療安全管理者の配置(第5号)は、病院、患者を入院させる施設を持つ診療所、入所施設を持つ助産所に限られています(医療法施行規則|e-Gov法令検索)。

号内容無床の診療所
第1号医療に係る安全管理のための指針の整備対象
第2号医療安全管理委員会の設置対象外
第3号安全管理のための職員研修の実施対象
第4号事故報告等の改善のための方策対象
第5号医療安全管理者の配置対象外
第6号安全管理に関する記録の整備対象

この改正は令和8年厚生労働省令第27号によるもので、2026年4月1日から施行されています。あわせて厚生労働省は、2026年3月31日付の医政局長通知「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(医政発0331第72号)で、指針に書く事項や研修・報告の運用を示しました(医政発0331第72号|厚生労働省)。

通知では、指針の「医療事故等発生時の対応に関する基本方針」に、管理者(無床の診療所の場合)へ報告すべき事例の範囲と報告手順を書き、その範囲に別表1の12事象を含めるとしています。別表1には、既知のアレルギーや禁忌の薬剤の投与による死亡・後遺障害、重大な検査結果の確認・伝達・フォローアップの失敗による死亡・後遺障害、医療機器の誤使用や故障による死亡・後遺障害など、外来でも起こりうる事象が含まれています。

研修と事故報告は、どう運用して何を残すのか?

研修は年2回程度開き、日時・出席者・研修項目を記録します。事故やヒヤリ・ハットは、指針で決めた範囲と手順に沿って管理者へ報告し、診療録や看護記録に基づいて報告を作ります。

前述の通知が示す運用の要点は次のとおりです。

  • 職員研修: 院内全体に共通する安全管理の内容を、年2回程度定期的に開くほか、必要に応じて開く。開催または受講の日時、出席者、研修項目を記録する。無床の診療所は、院外の研修を受講することで代えることができ、その場合も年2回程度の受講が目安になる
  • 事故報告: 院内で起きた事故等を管理者へ報告し、指針で定めた範囲と手順に従って事例を集め、分析して改善策を立てる。重大な事故は速やかに管理者へ報告する。報告は診療録、看護記録等に基づいて作る
  • 小規模の場合の扱い: 従業者が管理者1名だけの場合は、委員会の開催や管理者への報告は行わなくても差し支えないとされている

報告の仕組みについては、2026年7月27日付の厚生労働省の疑義解釈資料で、別表1・別表2の事象の報告は、すでに院内で整えているインシデント報告と同じ仕組みで差し支えないと示されました。指針に書くべき内容の一部を内規やマニュアルに委ねることも、指針側にその旨を明記し、内規で実際に定めていれば可能です(疑義解釈資料の送付について|厚生労働省)。

つまり、新しい様式を一から作る必要はありません。いまある報告用紙や研修の出欠表を、指針と突き合わせて「抜けている項目がないか」を確かめるところから始められます。

院内感染・医薬品・医療機器では、何の記録が必要か?

医療安全の4項目とは別に、院内感染対策、医薬品安全管理責任者、医療機器安全管理責任者の措置があり、それぞれ研修と、手順書・保守点検計画・情報収集の記録が必要です。

医療法施行規則第1条の11第2項は、無床の診療所にも次の措置を求めています(院内感染対策の委員会は有床の場合に限る)。

  • 院内感染対策: 指針の策定、従業者への研修、感染症の発生状況の報告その他の改善の方策
  • 医薬品安全管理責任者: 責任者を置き、医薬品の安全使用のための研修、業務手順書の作成と手順書に基づく業務の実施、未承認・適応外・禁忌の使用の情報その他の情報の収集を行わせる
  • 医療機器安全管理責任者: 責任者を置き、医療機器の安全使用のための研修、保守点検の計画の策定と適切な実施、情報の収集を行わせる
  • 診療用放射線: エックス線装置等を備える場合は、安全利用のための責任者の配置と指針の策定など

医薬品の使用期限や在庫の管理は、手順書に沿った業務の一部として記録できます。期限切れと欠品を防ぐ管理の進め方はクリニック・歯科の医薬品・診療材料在庫管理で解説しています。

なお、医療法第25条に基づく保健所の立入検査について、厚生労働省は2026年6月の通知で、診療所は検査の必要性に基づき適宜対応するよう都道府県等に求め、新しい通知に基づく立入検査要綱の改訂は2027年度を予定していると示しています(令和8年度の医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査の実施について|厚生労働省)。検査の時期を待たずに、日々の記録で示せる形にしておくほうが慌てずに済みます。

何を、どの単位で記録すればよいのか?

記録ごとに「示すべき事実」を決め、指針は版、研修は職員×回、報告は1事例、保守点検は機器×回を単位にします。

無床クリニックの医療安全の記録の対応図。指針、職員研修、事故・ヒヤリハット報告、院内感染、医薬品、医療機器の6つについて、記録の単位と残す項目を整理している。無床クリニックの医療安全の記録の対応図。指針、職員研修、事故・ヒヤリハット報告、院内感染、医薬品、医療機器の6つについて、記録の単位と残す項目を整理している。
記録示すべきこと記録の単位残す項目の例
医療安全の指針通知の示す事項を文書化し、職員に周知している指針の版ごと版番号、改訂日、改訂理由、報告すべき事例の範囲、周知した日
職員研修年2回程度、研修を開いた・受講した職員×研修回日時、研修項目、出席者、院外研修の主催者、欠席者のフォロー
事故・ヒヤリ・ハット報告報告を集め、分析し、改善策を共有した1事例ごと発生日時、内容、患者への影響、報告日、改善策、職員への共有日
院内感染対策指針・研修・発生状況の報告がある研修回・発生事例研修記録、感染症の発生状況、対応内容
医薬品の安全使用手順書があり、その手順で業務をしている手順書の版・確認回手順書の版、定期確認の日と結果、収集した安全性情報
医療機器の保守点検計画を立て、計画どおり点検した機器×点検回機器名、点検予定日と実施日、実施者(院内・業者)、結果

研修を「研修1回につき1行」ではなく「職員1人×研修1回」で持つのが要点です。院外研修を受けた職員と院内研修に出た職員を同じ表で数えられ、今年度の受講が1回以下の職員を抜き出せます。

Excel・既製ソフトとの違いは?

電子カルテやレセコンは診療と請求の記録、医療安全のeラーニングは研修の受講管理が得意です。指針・報告・研修・機器点検をひとつの院内台帳に束ねる部分は、どちらにも収まりにくいところです。

方式費用の目安向いている範囲
電子カルテ・レセコン製品・規模で異なる診療録・請求。事故報告の根拠となる診療記録はここにある
研修のeラーニングサービス月額制(受講者数で変動)研修動画と受講履歴。院内研修や報告・機器点検は別管理
Excel・紙のファイル低コスト職員が数名で担当者が把握できる規模なら回る。年度をまたいだ集計は手作業
カスタム開発(よりどころべーすの場合)初期298万円〜(税別)指針・研修・報告・感染・医薬品・医療機器の記録を職員名簿と機器台帳にまとめる

職員が数名の診療所なら、上の6つのシートを持つExcelで十分に回ります。分院がある医療法人で本部が各院の状況をまとめて見たい場合や、院外研修の受講証と院内研修の出欠を一緒に数えたい場合に、仕組み化を検討する意味が出てきます。

私たちならクリニックの医療安全の記録基盤をこう設計する

分院を持つ医療法人から、この記録の仕組みづくりを私たちが受託するとしたら、次のように組み立てます。項目名や画面の作りは、診療科、職員数、すでに使っている報告様式を伺ってから決めます。

データ設計: 医療機関マスタ×職員名簿×機器台帳に、記録をぶら下げる

土台は「医療機関マスタ」「職員名簿」「機器台帳」の3つです。医療機関マスタには有床か無床か、エックス線装置の有無を持たせ、そこから必要な措置の一覧が決まるようにします。医療安全・院内感染・医薬品・医療機器それぞれの責任者は、職員名簿に任期つきでひもづけます。研修は「研修回」と「職員×研修回の受講記録」に分け、院外研修は主催者名と受講証の画像を受講記録に添えます。事故・ヒヤリ・ハット報告は1事例1件で持ち、指針で定めた「報告すべき事例の範囲」の区分を選択肢として持たせます。機器台帳には機器ごとの保守点検の周期と委託先を登録し、点検1回ごとの実施記録をぶら下げます。

情報の流れ: 受付と診療室で起票し、師長が束ね、院長が確かめる

ヒヤリ・ハットは、気づいた看護師や受付スタッフがその日のうちにスマートフォンから起票します。発生日時、場所、患者への影響の程度、関係した薬剤や機器を選んで入力し、カルテ番号は保存時に権限のある職員だけが見られる欄に入れます。看護師長は週に一度報告を見て、改善策と職員への共有日を記入します。院長は月に一度、報告件数と未対応の改善策、研修の受講状況、点検予定を過ぎた機器を1画面で確認します。

AIの回答設計: 足りない記録を、根拠とともに示す

社内AIチャットからこれらの記録を参照できるようにすると、事務長は台帳を開かずに不足を確かめられます。たとえば事務長が「今年度の医療安全研修を、まだ1回しか受けていない職員は誰ですか」と尋ねたとします。AIは職員名簿と受講記録を突き合わせ、「在籍14名のうち、今年度の受講が1回以下の職員は4名です。うち2名は6月の院内研修を欠席し、院外研修の受講記録もありません。2名は7月入職です」と答え、該当する受講記録の一覧を添えます。

看護師長が「点検予定日を過ぎた医療機器はありますか」と聞けば、機器台帳から予定日を過ぎて実施記録がない機器と、前回の点検の委託先を一覧にします。AIの役割は記録の抜けを見つけて示すまでで、事故が医療事故に当たるか、機器を使い続けてよいかの判断は院長が行います。

権限・運用ルール: 報告者を責めない設計にする

通知は、原因の調査・分析は個人の責任追及を行うものではないと述べています(有床の場合の委員会業務についての記載)。無床の診療所でもこの考え方に沿って、報告の閲覧範囲は院長・看護師長・医療安全の担当者に限り、職員の人事評価の画面とはつなげません。報告は保存後に上書きできない形にし、訂正は履歴として追加します。責任者が退職する際は、退職手続きの画面に「医療機器安全管理責任者になっている」と表示し、後任を決めるまで手続きを完了できない順番にします。

定着の仕掛け: 年度の予定表から逆算して知らせる

年度初めに、研修2回、指針の見直し、機器ごとの保守点検の予定を予定表として作ります。予定日が近づくと担当者に知らせ、下半期に入っても2回目の研修予定がなければ、院長の画面で目立つようにします。新しく入職した職員には、受講すべき研修を「未受講」として最初から登録しておきます。

よりどころべーすのクリニック向けダッシュボードのデモ画面(サンプルデータ)。本日予約・待機患者・今月診療数のKPIカード、月次推移のグラフ、カルテ記録や処方箋確認・備品発注などの直近タスクが並び、左のメニューに予約管理・診療記録・処方箋管理・タスク管理・スタッフ・シフト・ファイル管理がある。よりどころべーすのクリニック向けダッシュボードのデモ画面(サンプルデータ)。本日予約・待機患者・今月診療数のKPIカード、月次推移のグラフ、カルテ記録や処方箋確認・備品発注などの直近タスクが並び、左のメニューに予約管理・診療記録・処方箋管理・タスク管理・スタッフ・シフト・ファイル管理がある。

上の画面は、よりどころべーすのクリニック向けダッシュボードのデモ画面(サンプルデータ)です。数値や氏名はすべてデモ用で、医療安全の指針・研修・報告の画面は、このデモにはまだありません。実際の構築では、この「職員×タスク×ファイル」の骨格の上に、上で書いた記録の台帳を載せて作り込みます。

研修のeラーニングと紙の報告用紙と機器業者の点検報告書が別々にある状態では、3つを突き合わせる台帳だけがExcelで残りがちです。よりどころべーすは業種別パッケージに足りない部分だけをスクラッチで加える作り方なので、タスク・スタッフ・ファイル管理が載った基盤に医療安全の台帳を追加し、貴院がすでに使っている報告様式や研修の進め方に合わせて作り込めます。要件を固める段階では、エンジニアが院長や看護師長から「保健所の確認の前に何を探しているか」を直接聞き取ります。上の設計は叩き台で、診療科や分院の数によって必要な画面は変わるため、要件の整理からご一緒します。

手元でできる確認として、今年度に医療安全の研修を受けた職員の名前を、職員名簿と並べてみてください。受講を確かめられない職員がいれば、そこが記録を整える入口です。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。

まとめ|医療安全は「記録で示せる形」にしておく

押さえておきたいのは次の3点です。

  • 2026年4月から、無床の診療所も医療安全管理に関する記録の整備が求められる。指針・研修・事故報告等の方策とあわせて4つの体制を確保する
  • 研修は年2回程度で、日時・出席者・研修項目を記録する。院内感染・医薬品・医療機器の責任者業務にも研修と手順書・点検計画の記録がある
  • 記録は「指針は版」「研修は職員×回」「報告は1事例」「保守点検は機器×回」を単位にすると、未受講者や点検漏れを抜き出せる

施設基準の届出や毎年8月の報告の管理はクリニックの施設基準管理|変更届と毎年8月の適合性報告に慌てない台帳のつくり方で扱っています。クリニック向けの業務システムの全体像は、クリニック・歯科向けAI業務システムの詳細で紹介しています。

よくある質問

Q. 無床のクリニックにも医療安全管理者の配置は必要ですか?

A. 医療法施行規則第1条の11第1項第5号の医療安全管理者の配置は、病院、患者を入院させる施設を持つ診療所、入所施設を持つ助産所が対象で、無床の診療所は対象外です。一方、同項第6号の安全管理に関する記録の整備は、無床の診療所も対象です。

Q. 医療安全の研修は年に何回必要ですか?

A. 厚生労働省の通知(医政発0331第72号)では、年2回程度定期的に開催するほか必要に応じて開催し、日時・出席者・研修項目を記録することとされています。無床の診療所は、院外の研修を受講することで代えることができます。

Q. 新しく別表1・別表2の事象を報告する専用の仕組みが必要ですか?

A. 厚生労働省の2026年7月27日付の疑義解釈資料では、既に院内で整備しているインシデント報告と同じ仕組みで報告して差し支えないとされています。指針の報告すべき事例の範囲に、別表1の事象を含めておくことが必要です。

Q. 職員が院長1人だけの診療所でも、事故報告の仕組みは必要ですか?

A. 通知では、従業者が管理者1名しかいない場合は、委員会の開催や管理者への報告は実施しなくても差し支えないとされています。指針の整備や、記録の整備などほかの項目の扱いは、管轄の保健所の案内で確認してください。

Q. 医療機器の保守点検は、何を記録しておけばよいですか?

A. 医療機器安全管理責任者が保守点検の計画を立て、計画どおりに実施することが求められています。機器ごとに点検の予定日と実施日、実施者(院内か委託業者か)、結果を記録しておくと、計画と実施の対応を示せます。