「3ヶ月点検の時期は、整備工場から電話が来て気づく」「日常点検表は運転席のバインダーに挟んだままで、整備管理者が見るのは月末」——トラックを10台、20台と持つ運送会社では、車両の点検と整備の記録が、車ごと・人ごとにばらばらの場所に残っていることがよくあります。
車両の点検整備は道路運送車両法で使用者の義務とされ、事業用トラックは点検の頻度も記録の保存も自家用車より厳しく決まっています。点検を「やっている」だけでなく、いつ・誰が・何を確認して運行を認めたかを、記録で示せることが求められます。
先に、要点をまとめます。
- 事業用トラックは、1日1回の運行開始前の日常点検と、3ヶ月ごとの定期点検が義務。定期点検の結果は点検整備記録簿に記載し、記載の日から1年間保存する
- 乗車定員10人以下の事業用自動車を5両以上使う営業所ごとに整備管理者の選任が必要で、選任から15日以内に地方運輸局長への届出がいる
- 整備管理者には、日常点検の実施方法を決める、点検結果に基づいて運行の可否を決める、定期点検の実施計画を立てる、記録簿を管理するなどの権限を与えなければならない
- 日常点検は乗務前点呼の確認事項でもある。車両台帳・点検記録・点呼記録を同じ車両番号でつなぐと、点呼の場で運行可否の判断と記録がそろう
この記事は、運送会社の整備管理者、運行管理者、営業所長、車両管理を担当する事務職の方に向けて、何を記録し、どう残すかを整理します。自社の扱いの判断は、管轄の運輸支局の案内で確認してください(本記事の制度記述は2026年10月6日時点で確認)。
事業用トラックの点検は、何が義務なのか?
1日1回の運行開始前の日常点検と、3ヶ月ごとの定期点検が義務です。定期点検の結果は点検整備記録簿に記載し、車両に備え置いて1年間保存します。
道路運送車両法第47条の2は、自動車の使用者に日常点検を義務づけ、事業用自動車などは「一日一回、その運行の開始前において」点検しなければならないと定めています。同法第48条は、自動車運送事業の用に供する自動車の定期点検の間隔を3月としています(道路運送車両法|e-Gov法令検索)。
定期点検や整備をしたときは、点検整備記録簿を車両に備え置き、遅滞なく記載します。記載事項は法第49条と自動車点検基準第4条で決まっています(自動車点検基準|e-Gov法令検索)。
| 記載事項 | 根拠 |
|---|---|
| 点検の年月日、点検の結果 | 法第49条第1項第1号・第2号 |
| 整備の概要、整備を完了した年月日 | 法第49条第1項第3号・第4号 |
| 自動車登録番号(車両番号) | 自動車点検基準第4条第1項第1号 |
| 点検または特定整備時の総走行距離 | 同第2号 |
| 点検・整備を実施した者の氏名または名称と住所 | 同第3号 |
保存期間は、3ヶ月ごとの定期点検の対象となる事業用自動車では記載の日から1年間です(自動車点検基準第4条第2項)。さらに貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の3は、運送事業者に対し、車両の構造や走行距離などの使用条件を考えた定期点検の基準を自社で作り、点検・整備の記録を記録簿に準じて保存することを求めています(貨物自動車運送事業輸送安全規則|e-Gov法令検索)。
整備管理者は、何を決めて何を管理するのか?
整備管理者は、日常点検の実施方法を決め、点検の結果から運行の可否を決め、定期点検と整備の実施計画を立てて、記録簿を管理する役割です。会社はこれらの権限を整備管理者に与えなければなりません。
道路運送車両法第50条と同法施行規則第31条の3により、乗車定員10人以下の事業用自動車を5両以上使う使用の本拠(営業所)ごとに、整備管理者を選任する必要があります。選任・変更したときは15日以内に地方運輸局長へ届け出ます(法第52条)。整備管理者になれるのは、同種の自動車の点検・整備または整備の管理に2年以上の実務経験があり地方運輸局長が行う研修を修了した者、または1〜3級の自動車整備士技能検定の合格者などです(施行規則第31条の4。道路運送車両法施行規則|e-Gov法令検索)。
施行規則第32条は、整備管理者に与えなければならない権限を次のように定めています。
- 日常点検の実施方法を定めること
- 日常点検の結果に基づき、運行の可否を決定すること
- 定期点検を実施すること、随時必要な点検を実施すること
- 点検の結果必要な整備を実施すること
- 定期点検と整備の実施計画を定めること
- 点検整備記録簿その他の点検・整備に関する記録簿を管理すること
- 自動車車庫を管理すること
- これらのために運転者・整備員などを指導・監督すること
整備管理者はこれらの執行の基準を規程として定め、それに基づいて業務を行います(同条第2項)。また運送事業者は、新たに選任した整備管理者と、最後に研修を受けた年度の翌年度末を過ぎた整備管理者に、地方運輸局長が行う研修を受けさせなければなりません(輸送安全規則第3条の5)。
点検の記録は、どこで抜けやすいのか?
日常点検表・定期点検の予定・整備工場の記録簿・点呼記録が別々の場所にあり、同じ車両番号でつながっていないところで抜けます。
点検をしていない運送会社は多くありません。困るのは、点検をしたことを示す記録が散らばっている場合です。よく見かけるのは次のような状態です。
- 日常点検表が車内に置きっぱなし: 運転者は毎朝チェックしているが、整備管理者が確認するのは月末。不良の申告があった日に、誰が運行可否を判断したかが残っていない
- 3ヶ月点検の予定が整備工場任せ: 予定は工場からの連絡頼みで、代車運用や繁忙期に1台だけ点検が遅れても気づきにくい
- 記録簿が車ごとの紙: 車検証入れの記録簿は1台ずつ開かないと中身が分からず、全車の直近の点検日を一覧にできない
- 点呼記録と日常点検がつながらない: 乗務前点呼の記録簿に「日常点検 済」の欄はあるが、どの車両のどの項目を見たかが点検表と結びついていない
- 整備管理者の研修期限を誰も追っていない: 前回の受講年度が分からず、研修の受講漏れに後から気づく
点呼の記録簿とアルコールチェックの一元管理については、運送業の点呼記録、紙の記録簿とアルコールチェックが別管理になっていませんか?で詳しく扱っています。乗務前点呼では、輸送安全規則第7条により日常点検の実施またはその確認が報告・確認事項になっているため、点検と点呼は同じ車両番号で結びつけておくと、点呼の場で判断がそろいます。
何を、どの単位で記録すればよいのか?
記録ごとに「示すべき事実」を決め、日常点検は車両×運行日、定期点検は車両×回、整備は1件、整備管理者は営業所×任期を単位にします。
| 記録 | 示すべきこと | 記録の単位 | 残す項目の例 |
|---|---|---|---|
| 日常点検 | 運行開始前に点検し、結果を確認した | 車両×運行日 | 点検日時、運転者、不良の有無と箇所、運行可否、判断した整備管理者 |
| 定期点検 | 3ヶ月ごとに点検した | 車両×点検回 | 予定日、実施日、走行距離、実施者(自社・工場)、結果 |
| 整備 | 必要な整備をして完了した | 整備1件ごと | 整備の概要、完了日、実施者、費用 |
| 点検の実施計画 | 計画を立てて、それに沿っている | 年度×車両 | 各車両の定期点検予定、車検満了日、代車の手配 |
| 整備管理者 | 営業所ごとに選任し、研修を受けている | 営業所×任期 | 氏名、資格区分、選任日、届出日、研修受講年度 |
この表をExcelのシートに分けて始めることもできます。大事なのは、定期点検を「点検1回につき1行」でなく「車両1台×点検1回」で持ち、予定日と実施日の両方を残すことです。そうすると、予定日を過ぎても実施記録がない車両を一覧にできます。
既製の車両管理アプリとの違いは?
車両管理アプリは日常点検の入力や車検期限の通知が得意です。点呼記録・運転者台帳・車両別の原価と同じ基盤でつなぐ部分は、点呼・労務・会計がそれぞれ別のツールだと手作業で残りやすいところです。
| 方式 | 費用の目安 | 向いている範囲 |
|---|---|---|
| 車両管理アプリ(クラウド) | 月額制(台数で変動) | スマホでの日常点検入力、車検・点検期限の通知 |
| 点呼システム・アルコール検知器連携 | 機器費+月額 | 点呼記録とアルコール数値。車両の点検記録は別管理のことが多い |
| Excel・紙の記録簿 | 低コスト | 台数が少なく、整備管理者が全車を把握できる規模なら回る |
| カスタム開発(よりどころべーすの場合) | 初期298万円〜(税別) | 点検・整備・点呼・運転者・車両別収支を同じ車両番号で束ねる |
台数が少なく営業所が1つなら、上の5つのシートを持つExcelでも回ります。複数の営業所があり本部が全車の点検状況を見たい場合や、整備費を車両別の収支に入れて運賃交渉の材料にしたい場合に、仕組み化を検討する意味が出てきます。
私たちなら運送会社の車両点検・整備の記録基盤をこう設計する
複数の営業所を持つ運送会社から車両の点検・整備の記録基盤を任されたら、私たちは次の順で設計を考えます。画面や項目の作りは、車両の台数と車種、整備工場との付き合い方、いま使っている点呼の仕組みを伺ってから決めます。
データ設計: 車両台帳×営業所×運転者台帳に、点検と整備をぶら下げる
土台は「車両台帳」「営業所マスタ」「運転者台帳」の3つです。車両台帳には登録番号、車種、車両総重量、車検満了日、所属営業所、委託先の整備工場を持たせます。営業所マスタには整備管理者を任期つきでひもづけ、資格区分、選任届の提出日、研修の受講年度を記録します。日常点検は「車両×運行日」の1件として持ち、不良があった項目と、運行可否を判断した整備管理者を残します。定期点検は「車両×点検回」で予定日と実施日を持ち、整備は1件ずつ費用とともにぶら下げます。乗務前点呼の記録は運転者台帳と車両台帳の両方にひもづけ、その日の日常点検の記録を参照できるようにします。
情報の流れ: 運転者が点検し、整備管理者が可否を決め、運行管理者が点呼で確かめる
運転者は出庫前にスマートフォンで日常点検を入力し、不良があれば写真を添えます。不良の申告があると整備管理者に通知が届き、整備管理者が「運行可」「整備後に可」「運行不可」を選んで記録します。運行管理者は乗務前点呼の画面で、その車両の当日の点検結果と可否の判断を確認してから指示を入力します。整備工場で定期点検を受けたら、事務担当が工場の記録簿の内容と写しを登録し、予定日と実施日がそろったことを整備管理者が確認します。
AIの回答設計: 点検の抜けと期限を、根拠とともに示す
社内AIチャットからこれらの記録を参照できるようにすると、整備管理者は台帳を開かずに状況を確かめられます。たとえば整備管理者が「来月中に3ヶ月点検の予定日が来る車両と、前回の点検で指摘があった車両を教えて」と尋ねたとします。AIは車両台帳と定期点検の記録を突き合わせ、「来月が予定日の車両は6台です。うち2台は前回の点検でブレーキパッドの残量を指摘されています。1台は前回の実施日が予定日より9日遅れていました」と答え、該当する点検記録を添えます。
営業所長が「先月、日常点検で不良の申告があったのに運行可否の判断が記録されていない日はある?」と聞けば、該当する運行日と車両、運転者を一覧にします。AIの役割は記録の抜けと期限を見つけて示すまでで、運行を認めるかどうかは整備管理者が決めます。
権限・運用ルール: 運行可否の判断は整備管理者だけが入力する
施行規則第32条で整備管理者の権限とされている運行可否の決定は、整備管理者(と、規程で定めた代務者)だけが入力できるようにします。点検と整備の記録は保存後に上書きできない形にし、訂正は履歴として追加します。保存期間の1年を過ぎた記録も、車両別の整備費の集計に使うため削除せずに残す設定を選べるようにします。整備管理者が異動・退職する際は、営業所マスタの画面で後任と選任届の提出日を入力するまで手続きを完了できない順番にします。
定着の仕掛け: 年度の点検計画から逆算して知らせる
年度初めに、全車両の3ヶ月点検と車検の予定を点検計画として作ります。予定日の2週間前に事務担当と整備工場への連絡を促し、予定日を過ぎても実施記録がない車両は、営業所長と本部の画面で目立つようにします。整備費は車両台帳に積み上がるため、車両別の収支の計算にそのまま使えます。
よりどころべーすの物流・運送向けダッシュボードのデモ画面(サンプルデータ)。本日配送・遅延・車両稼働率のKPIカード、月次推移のグラフ、ルート確認・ドライバー点呼・遅延報告・車両点検記録などの直近タスクが並び、左のメニューに配送ルート管理・ドライバー・車両管理・倉庫在庫管理・タスク管理がある。
上の画面は、よりどころべーすの物流・運送向けダッシュボードのデモ画面(サンプルデータ)です。数値や氏名はすべてデモ用です。直近タスクに「車両点検記録」、メニューに「ドライバー・車両管理」がありますが、上で書いた運行可否の判断や点検計画の画面は、このデモにはまだありません。実際の構築では、この骨格の上に車両の点検・整備の台帳を載せて作り込みます。
点呼は点呼システム、日常点検は車両管理アプリ、定期点検は整備工場の紙の記録簿という分かれ方をしていると、車両1台ごとに全部を並べる表は誰かが手で作ることになります。よりどころべーすは物流向けのパッケージを土台に、足りない画面だけを個別に開発して足す構成なので、ドライバー・車両管理と点呼のタスクが載った基盤に点検・整備の台帳を追加し、貴社の整備管理規程や工場とのやり取りの流れに合わせて作り込めます。要件を固める段階では、エンジニアが整備管理者や運行管理者から「点呼の前に何を確かめているか」を直接聞き取ります。ここに書いた設計はたたき台です。営業所の数や車種の構成によって必要な画面は変わるので、要件の整理から一緒に進めます。
今日のうちに試せることとして、全車両の直近の3ヶ月点検の実施日を書き出してみてください。日付がすぐに出てこない車両があれば、まずその車両の記録の置き場所から見直します。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
まとめ|点検は「車両番号でつながる記録」にしておく
押さえておきたいのは次の3点です。
- 事業用トラックは1日1回の運行前の日常点検と3ヶ月ごとの定期点検が義務で、点検整備記録簿は記載の日から1年間保存する
- 乗車定員10人以下の事業用自動車5両以上の営業所ごとに整備管理者を選任し、運行可否の決定や記録簿の管理などの権限を与える
- 記録は日常点検を「車両×運行日」、定期点検を「車両×回」で持ち、点呼記録と同じ車両番号でつなぐと、抜けと期限を一覧にできる
運転者への指導・監督の記録は運送業の乗務員教育記録簿を一元管理する方法で、整備費を含めた車両別の収支は標準的な運賃を交渉材料にする原価見える化で扱っています。運送業向けの業務システムの全体像は、物流・運送向けAI業務システムの詳細で紹介しています。
よくある質問
Q. 事業用トラックの定期点検は何ヶ月ごとですか?
A. 道路運送車両法第48条により、自動車運送事業の用に供する自動車は3ヶ月ごとに定期点検を行う必要があります。点検の基準は自動車点検基準の別表で定められています。
Q. 点検整備記録簿の保存期間はどれくらいですか?
A. 自動車点検基準第4条第2項により、3ヶ月ごとの定期点検の対象となる事業用自動車の点検整備記録簿は、記載の日から1年間保存します。
Q. 整備管理者は何台から選任が必要ですか?
A. 道路運送車両法施行規則第31条の3により、乗車定員10人以下の事業用自動車の場合は、使用の本拠(営業所)ごとに5両以上で選任が必要です。選任・変更したときは15日以内に地方運輸局長へ届け出ます。
Q. 日常点検は運転者が行えばよいのですか?
A. 道路運送車両法第47条の2第2項は、使用者または自動車を運行する者が運行開始前に点検すると定めているため、運転者が点検できます。ただし、点検の実施方法を定め、その結果に基づいて運行の可否を決めるのは整備管理者の権限です(道路運送車両法施行規則第32条)。乗務前点呼では、運行管理者が日常点検の実施またはその確認を行います(輸送安全規則第7条)。
Q. 整備管理者の研修はいつ受ければよいですか?
A. 貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の5により、新たに選任した整備管理者と、最後に研修を受けた日の属する年度の翌年度の末日を過ぎた整備管理者に、地方運輸局長が行う研修を受けさせる必要があります。
